あなたの名は・・・ 第七章 イシュタル編 3
ユリウスはイシュタルとの別れを経験したあと、見違えるように成長した。
彼はイシュタルを迎えにいけるような男になるために・・・
早く父に認められるようになるために・・・
彼は学問・武芸をよく習得し、さらに魔法をよく鍛練した。
その過程で彼は徐々にその類まれなる才を開花させ、若くして大人たち以上の実力を持つに至った。
また、日々が経つごとに王者の風格が漂い始め、まさに彼が次代の大グランベルの後継者として、誰もが認めるようになっていった。
彼は徐々に自信をつけ、もうすぐイシュタルを迎えに行くことができると確信していた。
そして彼の年齢が13歳を超えたある日のことだった・・・
彼はその日、自室に篭っていた。
本当は外で体を動かそうとも思ったが、雲行きが怪しくなってきたので部屋に入ったのだ。
「少し・・・勉強でもするか・・・」
彼は仕方なく、本棚に向かってグランベルの歴史の本でも読み漁ろうとした。
その時だった。
「お初にお目にかかります。ユリウス殿下・・・」
突然、彼の部屋の中から何者かの声がした。
「なに!?誰だ!・・・」
彼はすぐ近くから聞こえたその声に警戒し、身構えた。
「ほほほ・・・怪しい者ではありませぬ・・・」
その言葉と共に突然、誰かがユリウスの部屋の中にワープしてきた。
ワープの魔方陣が浮かびあがり、その中から黒いローブを纏った老人が姿をあらわした。
「誰だ!貴様!?」
ユリウスは全身を現したその老人に質問をした。
「私めは暗黒教団の司祭マンフロイであります。ユリウス殿下。」
男は名を名乗り、うやむやしく礼をした。
ユリウスは暗黒教団の存在を詳しくはないが知っていた。
ロプトを奉ずるがゆえに迫害された人々のための教団だと聞いていた。
もともと公の組織でもなかったが、アルヴィスが皇帝になった際にその存在が認められたという。
「で、その暗黒教団の司祭が私に何か用か?」
ユリウスは冷たい視線でマンフロイを見た。
薄ら笑いを見せるこの男の事を、ユリウスはあまり好きになれそうになかった。
「はい。ぜひともユリウス殿下にお渡ししたい物がありまして・・・」
そう言いながらマンフロイは懐から何かを取り出した。
それは禍々しいオーラを放った黒い本であった。
「なんだ・・・それは?」
ユリウスはその本を見ていると、なぜか気持ちが悪くなった。
「これはロプトウスの黒聖書でございます」
マンフロイはさらっとその言葉を言った。
「なんだと!」
ユリウスは大声を上げた。
「それが暗黒神ロプトウスの黒聖書だというのか!? あのかつてロプト帝国の皇帝が所持し、その恐るべき力でこの世界を恐怖と破壊に支配したという・・・」
その聖書には暗黒神ロプトウスの力が詰まっており、ロプトウスの血を引きし者が手にすればロプトウスの化身として降臨することができるという・・・
ロプト帝国が滅びた後、災厄の元としてもっとも禁忌とされてきたものであった。
「貴様!なぜ、それを持っている!それはこの大陸とってもっとも危険なものだ。いくら貴様ら暗黒教団が認められたとはいえ、その本を持っているようでは、お前達の存在を認めるわけにはいかないぞ!」
「ふふっ・・それはこれまでのこと・・・これからはこの聖書が尊ばれ、この世界を導いていくのです。」
マンフロイはユリウスにその聖書をつきだした。
「さあ、ユリウス様・・・この聖書をお受け取りください。そして、我々の神となってください。」
「なにを!?私はユリウスだ。グランベル帝国の皇太子にして、ヘイムとファラの血を引き継ぐものだ。その私がなぜその忌まわしき聖書を手にとらねばならぬ!」
クククッ・・・とマンフロイは笑う。
「なにをおっしゃいます。ロプトウスの血を引きしあなた様がそんな事を言われては困りますな。」
「・・・なん・・・だと・・・?」
マンフロイから衝撃的な事実を告げられる。
「なにを言っている! でたらめをいうな!」
「でたらめではこざいません。貴方の体にロプトウスの血が流れている・・・それもとても正当な後継者たるほどの濃い血が・・・」
「嘘だ! 私はファラの直系のアルヴィスとナーガの直系ディアドラの子だ。その私がなぜロプトの血など引いていることになるんだ。」
「本当に何も知らないのですな。よろしい、私が全てお教えしましょう・・・」
マンフロイは語りだした。
かつてロプトウスの血を引いたシギュンという女性がいた事を・・・
そして、その女性がヴェルトマー家の当主ヴィクトルと、バーハラ王家のクルト王子の二人の男の子供をそれぞれ産んだ事を・・・
「それが殿下の両親、アルヴィスとディアドラなのですよ。あの二人は父親が違うだけの兄妹なのですよ」
「・・・うそだ。そんなの嘘だ!」
ユリウスは信じたくなかった。
自分の両親が禁忌である兄妹で結ばれたことなど。
「嘘ではありません。我々は二人がロプトの血を引いていたからこそ、二人を結ばせたのですから・・・」
「嘘ばっかり言うな! 父上と母上は愛し合っておられたからこそ結婚したんだ。私によく話してくれる。出会ったときの事を・・・そして、どれだけお互いに愛していたかという事を!」
「それこそが幻なのですよ。あの二人の愛は偽りであり、幻です。何しろディアドラはある男を愛し、その男の妻になったのですから・・・そう、反逆者シグルドの妻にね・・・」
「!?」
「シグルドの妻だったディアドラを拉致し、記憶を消してアルヴィスと結ばれるように我々が手引きしたのです。全てはロプトの血を引いた二人を結ばせ、あなたを生み出すために我々が仕組んだことなのですよ。言い方を変えればあなたは私達によって作られた存在と言えるでしょう。」
「・・・嘘だあああぁぁっ!!」
ユリウスは絶叫を上げた。
自分がこの男たちによって作られた存在だなんて・・・
自分が両親の愛の営みによって生み出された存在ではないなんて・・・
暗黒神の血を引きし者だなんて・・・
(嘘だ!そんなのでたらめだ!僕は信じない!・・・僕は!!)
ユリウスは耳を覆い、膝を折った。
「あなたは我々の神となるべくして生まれてきた存在なのです。ロプトウスの化身となる・・・ただ、それだけのためにこの世に生を受けたのですよ。さあ、この聖書を持ってロプトウスの化身となってくだされ。でなければ我々の苦労が全て水泡に帰してしまいますので。」
「黙れ、黙れ、黙れ!黙れええぇ!!」
ユリウスは半狂乱となって叫んだ。
「私はユリウスだ。皇帝アルヴィスの子だ!聖戦士の末裔なんだ。ロプトウスなんかじゃない!」
口ではそう言うが、ユリウスの心は激しく動揺した。
この男が言うことが本当なら、自分はロプトウスを受け継ぐ者となる。
聖戦士ではなく、逆にこの世界に災厄をもたらす存在が自分ということになる。
認めるわけにはいかなかった。
「おやおや、ロプト帝国の正当な後継者は意外と頑強だ。 せっかくあなたのために戦乱まで起こしたというのに・・・」
「戦乱・・・だと?」
「そうですよ。我々はあなたを生み出すために、そしてあなたにロプト帝国を再興させるために13年前にこの大陸に戦乱を起こさせました。あなたの父アルヴィスを操り、この世界を彼に支配させる。そして、あなたが彼の支配した世界を乗っ取らせるためにです。そのために我々は様々な事をしましたよ。例えば・・・」
マンフロイは突如、魔法の詠唱を始めた。
彼が印を組み部屋にあった鏡台に魔法をかけると、その鏡は過去を映し出す鏡に変わった。
「なんだ・・・」
「見せてあげますよ。あなたという存在のためにどれだけの戦乱が起きたのかを・・・」
その鏡は過去を映し出した。
それは現在、歴史の再現だった。
本の中の歴史ではない、本当にどれだけ悲惨な事が起きたかの・・・
イザークのリボー族のダーナ侵攻に端を発する戦乱の始まり。
そして、グランベルの報復攻撃。
その戦乱の中で焼かれる町、略奪される村々、理性を失った兵士たちに虐殺される男たち、暴行され、時にはその暴漢たちの子供を孕まされる女性たち、戦利品として連行され、奴隷市場に売られていく子供たち。
戦乱の現実がそこにあった。
それだけではない・・・
自分の私利私欲のために主君を虐殺する者・・・父を殺す者。
不信感のために同盟を破り、自分の国を戦乱に巻き込む者。
戦乱に引き裂かれる兄妹たち。
愛する者に想いも告げられず、戦場に倒れていく者。
友誼のためにその身を散らす者達。
そして、戦乱の間、道化を演じさせられ無残に打ち捨てられる者達。
戦乱に翻弄された人々が、戦乱で命を無駄に散らした人々が映し出されていた。
それは、いかに戦いが惨く、たくさんの人間の運命を変えてしまうかという証明だった。
そして、この戦いがユリウスという名のロプトウスの化身を生み出すために起こされたものだと、マンフロイは言うのだ。
(この惨劇が・・・この人たちが苦しみ、死んでいったのは・・全て僕のせいで・・・)
言い方を変えれば、この人たちはユリウスのせいで死んでいったといえるかもしれない。
ユリウスという存在を生み出すために、ユリウスをもってロプト帝国の再興を果たすために・・・これだけの悲劇が起こされたというのか。
(いやだ・・・そんなの嫌だ!)
「嫌だああああああ!! もう見せるな!!そんなものを・・・そんなものを!!」
ユリウスは目を覆い、全てから目を背けたくなった。
しかし、マンフロイはさらにユリウスを追い詰めていく。
「そんなものとは酷い言い様ですな。ユリウス殿下、あなたは見なくてはならないのですよ。この者たちがどのように死んでいったのかを・・・この者達はあなたのために死んでいったともいえるのですから。あなたの足元には屍の山があるのですよ。そのためにも・・・」
「黙れえええええぇぇぇっ!! 」
ユリウスはいきなり脱兎のように駆け出した。
その現実から逃げ出すように・・・・彼は鏡台の前から駆け出し、ドアに向かって走り出した。
「お待ちください。ユリウス殿下!」
マンフロイは彼を引き止めるが、彼は止まらなかった。
彼はドアから部屋の外に逃げ出そうとした時、そのドアが先に開かれた。
そこから顔出したのは、彼の双子の妹の顔だった。
「ユリウス兄様・・・先ほどから大声を上げてらっしゃるようですが、どうされたのですか?」
妹のユリアはユリウスが大声を上げているのを聞き、心配になって彼の部屋に来た。
しかし、ちょうど彼もこの部屋から出て行こうとしていたユリウスと衝突しそうになってしまった。
「ユリウス兄様!大丈夫ですか?」
ユリアは心配にユリウスを覗き込んだ。
「・・・ユリアか・・・」
ユリアは死んだようなユリウスの顔を見つけた。
蒼白となり、見えぬ何かに怯えるような感じだった。
「兄様!どうされたのですか!?その顔は・・・一体・・・」
自分を心配する双子の血を分けた妹を見る。
(ユリアも、僕と同じ様に作られた存在というのか・・・)
そうなのだ。
ユリウスも作られた存在なら、このユリアも作られた存在ということになる。
いや、今の自分の周りにある全てが、ロプトウスのために作られた環境といえるかもしれない。
たくさんの犠牲のもとに・・・
なにも罪もない人々が殺され、未来をもつべき人たちが絶望に苛まれ・・・
偽りの世界を作り上げられ、そして自分が生み出された。
一体なにを信じよというのか。
この自分自身の事も信じられないというのに、そして周りまで作られた世界というのなら・・・一体なにを信じろというのか。
(分からない・・・全部分からない。)
「ユリウス兄様!どうされたの?しっかりして!」
ユリアは彼の肩を揺すって懸命に呼びかけた。
しかし、ユリウスは・・・
「ごめん、ユリア・・・」
そのユリアを振り払い、部屋から出て行ってしまった。
「ユリウス兄様!!」
彼女はそのユリウスを引きとめる事はできなかった。
ユリウスは廊下を駆け出して、どこかに走り去ってしまった。
(どうされてしまったの・・・ユリウスお兄様・・・)
ユリアは兄を追おうと彼の部屋を出て行こうとしたとき、中にいた一人の黒き衣きた男が黒き聖書を持っているのを見つけた。
しかし、その男はすぐにワープを唱えてその場から消え去ってしまった。
一人、ユリウスの部屋にとり残されるユリア。
「一体・・・なにが起きたというの・・・」
「違う!違う! 絶対に違うんだ。」
ユリウスは廊下を走っていた。
(あの男が言ったことなんか、全部でたらめなんだ。)
あの男が言ったことなど全部嘘だと信じたかった。
あの鏡が映し出した事など信じたくなかった。
でも、あの男が言った事は理に適っていたし、あの鏡が映し出した事は歴史通りだった。
(でも、全部嘘なんだ。)
「ユリウス・・・どうしたの?」
突然、ユリウスの耳に聞きなれた声が入ってきた。
ユリウスは立ち止まって、その声がした方向に顔を向けた。
そこには彼の母、ディアドラが立っていた。
「どうしたのユリウス?酷い顔よ、なにかあったの?」
ディアドラは彼に近づきながら、ユリウスの顔が悲壮に満ちている事を指摘した。
「母上・・・」
「一体なにがあったの?」
ユリウスは信じられなかった。
この母が自分を生み出すために父と結ばされたことなど。
そして本当に愛する男がいたなどと言う事を。
(確かめればいいじゃないか!母上自身からあの男が言っていたことなど嘘だという事を)
あの男の言っていた事を否定するために、ユリウスは当の本人に確認を取ることにした。
「ユリウス?」
「母上! 母上は父上を愛していますよね。シグルドなどという男の事など知らないですよね。」
ユリウスは信じていた。
この母から彼の期待する答えが返ってくる事を。
しかし、シグルドという名前を聞いた途端、母の顔は崩れた。
「シグルド・・・シグルド様・・・」
母はその名前を連呼した。まるで自分の記憶の中を呼び覚ますように。
そしてユリウスは見てしまった。
母が「シグルド様」という言葉を紡ぎながら涙を流している姿を。
「あれ、何で私・・・涙を流してしまっているの・・・」
それは母にとってシグルドという名前が特別な意味を持っていることの証明だった。
例え記憶がなくても、母はシグルドの事を想っているのだ。
そしてユリウスはマンフロイの言っていた事が事実であった事を思い知らされた。
「母上・・・そんな・・・」
涙を流す母の姿から後ずさりしてしまうユリウス。
「ユ、ユリウス・・・どうしたの・・・」
ディアドラは息子の異変に気づいた。
「嘘だ!全部うそだああ!!」
ユリウスは再び母の前から走り去っていった。
母は必死にユリウスの名を呼んだが、彼は止まる事はなかった。
外では、ついに雨が降り出していた。
「嘘だ・・・全部嘘なんだ・・・」
彼は雨に濡れながら、ぶつぶつと呟き、そしてうずくまっていた。
彼は今、かつて自分とイシュタルが共に遊んだ庭園の草壁の中にいた。
彼女と初めて出会ったこの場所で、彼は絶望に苛まれていた。
否定できなくなった現実に・・・絶望していた。
(僕はロプトウスなのか・・・あの男の言うとおりに作られた存在なのか・・・そして、僕という存在が戦乱を呼び、戦いを引き起こしたというのか。)
ユリウスがあの男から告げられた事実。
ユリウスにとってあまりに辛すぎる事実。
今までの自分を見失ってしまうほどの・・・
何しろ、それは自分が今まで信じて物が崩れ落ちることだったからだ。
自分の存在も、信じていた物も、そしてこの世界も・・・
全てが彼の中で崩れ落ちていった。
(僕は闇の血を受け継ぐ者。そんな僕の存在がたくさんの人を殺したのか?多くの人たちに災厄をもたらす存在なのか?・・・あはは、なんだか実感沸かないや。まるで夢の中にいるみたいだ。周りの風景が全て幻みたいに見えるよ。)
雨に打たれながら、彼は自分の周りが霞んで見えた。
雨が目の中に入っているせいもあるだろうが、それより彼の心が虚ろになり周りのの風景をぼやかしていた。
(これは夢だ。悪い夢なんだ。きっと目が覚めたらあんな嫌な事を言った男も実はいないことになって、僕がロプトウスだという馬鹿な話も実は夢の中だけになって・・・そんな・・そんな・・・)
しかし、今のユリウスにはそれを信じる事はできない。
なぜなら体を打つ雨の感触が、これが夢でない事を物語っていた。
(体に雨が当たっている。体が雨に濡れて冷たい。夢なのに・・・なんでこんなに・・・)
突如、自分の目に暖かさを感じた。
雨にまみれて、自分の目が涙を流していることに気づくユリウス。
感情が止まらなくなっていく・・・
(分からない!もうなにが真実か分からない!なんで僕がロプトウスなんだよ。なんで僕の存在が悲劇を生むんだよ。どうして僕は・・・)
彼の心がこれ以上ない悲鳴を上げる。
自分の信じていたものが全て崩れ去ったのだから仕方がないだろう。
その後に訪れる絶望に覆い隠されていく彼の心。
(もう、なにも信じられない。もう何も分からない。僕の周りにあるもの。僕のいるこの世界も・・・なにも信じられない。なにも・・・)
暗き世界に追い尽くされていく彼の心・・・
今まで、彼とであった人々、彼の周りにあった風景が浮かび上がっては崩れ去っていた。
(母上も信じられない。父上も信じられない。ユリアも・・・この庭園も・・・何も信じられない!)
音を立てて崩れ去っていく彼の世界。
しかし、ある人の顔を頭の中に思い浮かべた時、崩壊していった物が止まった。
(・・・イシュタル・・・)
彼の中に一人の少女の笑顔が浮かび上がる。
自分の大切な少女の顔が・・・
自分の大好きな少女の顔が・・・
(イシュタル・・・君も幻なのか?君の存在も偽りなのか?)
ユリウスは一瞬、彼女の存在も信じられなくなった。
しかし、彼女の顔が消え去る事はなかった。
いや、むしろ頭の中に浮かんだ彼女の顔は光包まれて、次第に大きくなっていった。
彼はイシュタルを信じていたのだ。
彼女の存在だけは否定し切れなかった。
あの、ほんの短い間の・・・イシュタルとの幸せな一時がユリウスの中で一番大きな存在であったのだから。
(イシュタルだけは・・・真実だよね。あの君と過ごした日々だけは・・・本当だよね。幻じゃないよね。)
今の彼の心は、イシュタルと過ごしたあの幸せなあの時に回帰していた。
(イシュタルはいつも僕の悩みを聞いてくれたよね。勉強とかで分からない事があったら教えてくれたよね。僕が悲しんだ時も慰めてくれたよね。いつも・・・いつも・・・)
彼女はいつも自分と一緒に悩んでくれた。
色々と教えてくれた。
彼女と話せば、自分の胸のつかえはいつも取れた。
「あはは・・・イシュタル・・・僕はどうすればいいのかな?なんだか、僕の存在は邪悪な物なんだって・・・僕は暗黒神の化身なんだって、僕の存在が人々を不幸にするんだって・・・こんなときにはどうすればいいのかな?イシュタル・・・僕はどうすればいいのかな?」
彼は声に出して大切な少女に助けを求めた。
いるはずもない彼女に・・・
しかし、彼は助けを求めざるを得なかった。
彼の心は既に壊れかけ始めていたのだから・・・
「あれ?イシュタル・・・どうして答えてくれないの? ふふっ・・・イシュタルにも分からない事があるんだ。だったら、一緒に考えてくれるかい?一緒に答えを探してくれるよね。一緒に考えようよ。僕はどうしたらいいのかを・・・」
彼はいるはずもない彼女に語り掛ける。
しかし、彼の耳に入るのは雨音だけだった。
「どうしたのイシュタル・・・どうして答えてくれないの?いつも語りかけたら返事をしてくれたじゃないか。いつもみたいに笑顔で微笑んでくれ。そして可愛い声で言ってくれたじゃないか・・・『もう、ユリウス様ったら・・・』って。 困ったような、少しだけ嬉しいような声で言ってくれたじゃないか。どうして今日はそうじゃないの?」
答えも返事も反応も返さない彼だけ存在する目の前のイシュタル。
「答えてくれ! 返事をしてくれ、イシュタル!!どうしてなにも言ってはくれないんだ。イシュタル・・・何でもいいから言ってくれ。」
彼がどれだけ叫んでも・・・嘆いても・・・
彼女の声は聞こえなかった。
「お願いだ! 僕を一人にしないでくれええ!!君の声を聞かせてくれ!どうして何に言ってくれないんだ。君まで幻なのか!?そうじゃないと言ってくれ・・・頼む・・・言ってくれ!!」
彼の叫んだ。力の限り・・・
だが、時間が経つことに強くなる雨が、彼の叫びを覆い隠していた。
「イシュタルゥゥゥ―――――――ッ!!」
どれだけ叫んでも、どれだけ泣いても・・・
君は僕の前には来てはくれなかった。
分かってはいるんだ。
今、君は遠くの土地にいるのだから。
僕の叫びが聞こえないことも・・・例え、聞こえてもここには来る事ができないことも・・・
でも、それでも・・・・
今は・・・君に僕の傍にいて欲しかった。
いつのまにか雨は止んでいた。
(誰も・・・来てはくれなかった。誰も・・・)
ユリウスは膝を抱え、いまだにその場所にいた。
彼の体はビショ濡れであり、体は冷えて震えていた。
いや、震えは寒さのせいではない。
悲しくて震えが止まらなかったのだ。
(結局、どれだけ泣いても・・・どれだけ苦しんでも・・・なにも解決しなかった。)
ユリウスは雨の降り続く間、ずっと悩み、泣き続けた
しかし、彼への現実は変わらなかった。
彼の嘆きも消えはしなかった。
(どうして・・・僕はこんなに苦しまなくちゃいけないんだ。こんなに泣かなくちゃいけないんだ。)
苦しかった。
自分の存在が・・・
事実の残酷さが・・・
悲しかった。
事実を知った事が・・・
なにも知らなかった昨日には戻れないことが・・・
(もう・・・やだ。どうしてこんな思いをしなくてはいけないんだ。どうして、僕はこんな星の下に生まれてきてしまったのだ。)
彼は自分の運命を呪った。
ロプトウスとしての運命。
忌まわしき者としての運命を・・・
(苦しい・・・頭が痛い・・・嫌だ。もう嫌だ。もう、こんな思いなんてしたくないのに。でも、考えれば考えてしまうほど、いやな気持ちが頭いっぱいに広がって・・・そんな嫌な気持ちになんかなりたくもないのに、嫌な黒い感情がどんどん沸き立ってきて・・・僕を追い詰めていく。)
ユリウスの心は黒い感情が止めどなく流れ出した。
(僕は自分が嫌だ。こんな運命を背負わされた自分が。そしてこの世界が嫌だ。なんで、僕にこんな運命を背負わせるんだ。なぜ、こんなに醜い争いを起こすことができるんだ。それもロプトウスの復活とか、正義のためとか・・・どうしてそんな事で人の運命を平気で変えてしまうことができるんだ。どうして、そんなもののために人の命を奪うことができるんだ。狂っている・・・こんな世界狂っている!!)
ロプト帝国を再興するという狂気のよって自分を生み出すような世界を。
それぞれの思惑のために人々が醜い争う世界を。
彼は狂っていると思った。
壊れていると思った。
(こんな世界があっていいのか?人と人が憎み合い、自分達の神のためなら平気で人々を戦乱に巻き込む。人々の命を弄び、あまつさえ人の心まで弄び、自らの手で悪魔を作り出すような世界が・・・あっていいのか!?)
彼は心の中で叫び続けた。
彼のような純情な少年には辛かった世界の真実。
思春期の少年には辛かった出生の事実。
全てを受け入れるにはあまりに幼く、か弱かった彼の心。
愛に囲まれて生きてきた彼には辛すぎることだった。
だから・・・
今まで信じてきた世界が、自分が幻だったと分かった時、彼の心に悪魔が宿り始めた。
(こんな世界なんか要らない!こんな醜い世界なんか、こんな辛い思いをする世界なんか要らない。だって全部偽りだから・・・幻だから・・・僕には認められない。こんな世界なんか必要ないんだ。・・・壊れてしまえばいい・・・こんな世界なんか・・・消えてしまえばいいんだ!!)
彼は自分を苦しめるこの世界が壊れる事を望んだ。
醜い人間も、血に濡れた歴史も、自分自身の運命も全て壊れる事を望んだのだ。
(僕には必要ない。この世界なんて・・・こんな世界なんて・・・要らないんだ。壊れてしまえ!破壊されてしまえ!僕にはこんな世界なんて必要ないんだ。必要なのは・・・必要なのは・・・!)
悪魔の満ちた彼の心に浮かんだ、たった一つ信じられるもの。
それは自分の大切な人との幸せな一時。
そして彼女自身・・・
それがあれば・・・ユリウスはそれだけがあればよかった。
彼女さえいればよかった。
彼女さえいれば・・・他にはなにも・・・
「他にはなにも必要ない!!」
彼はこうしてロプトウスとなった・・・
この世界を破壊する力を手に入れるために。
そして大切な少女を手に入れる力を手に入れるために。
「どうだ!?イシュタル見たか。僕の全てを・・・僕の醜さを。」
魔法を使い終えたユリウスはイシュタルに笑いかけながら言った。
「僕はこんな人間なんだ。悪魔なんだ。この世界を滅ぼすことを欲した悪魔なんだ。僕はそれがしたったから、それをするための力が欲しかったから・・・自分の意思でロプトウスになったんだ。」
イシュタルはユリウスを見つめていた。
恐ろしく綺麗で、悲しみに満ちた瞳で・・・
「笑ってくれイシュタル、こんなに弱い僕を・・・自分の弱さに屈し、悪魔となった僕を!あはははっ!本当にふざけた男だよね、僕は・・・ ロプトウスになっても、世界を滅ぼす事を欲する僕になっても、まだ僕は君の心を自分の物にしたいと思っている。こんな醜く、弱い男なのに・・・こんな醜い姿になってしまってもね。こんな僕では君は僕の事を好きになってはくれない事は分かっていても。」
今の彼はロプトウスとしての部分が影を潜めているようだ。
今、自分自身を貶めている彼は・・・全てに絶望し、全てのものを憎むようになってしまった哀れな少年のものだった。
「でもね・・・僕はそれでも君が傍にいて欲しかったんだよ。だから僕は、君の心ではなく体を支配する事で君を僕の物にしようと思ったんだ。それでしか君を手に入れる方法はないと思ったから・・・」
ユリウスはある意味自分に自信がなかったと言えるだろう。
ロプトウスになった自分ではイシュタルの心から愛し合う事はできない。
自分を愛してくれる事はないと思ったから。
だから彼女を力で支配しようとした。
彼女を襲い、処女を強引な方法で奪った事も・・・
今また、彼女の体に快楽を教え込み、彼女を支配しようとしていることも・・・
全ては彼女と愛し合う自信がユリウスにはなかったからだ。
「本当に馬鹿だよね。幼き頃に互いに愛を確かめ合った仲なのに・・・それなのに君の心を無視してこんな事をしてしまうなんて本当に馬鹿だよね。でも、それでも僕は君が好きなんだ。愛しているんだ。だから僕はどんな事をしても君を支配する。たとえ・・・君の心を踏みにじっても・・・」
「・・・なさい・・・」
「・・・?」
本当に消え入りそうな小さな声がユリウスの耳に入ってきた。
気がつくとイシュタルは・・・大粒の涙を流しながらユリウスを見つめていた。
そして小さな声で
「ユリウス様・・・ごめんなさい・・・」
と言っていた。
「イシュタル・・・どうしたんだ?」
あまりに悲しい声と表情にユリウスは戸惑った。
イシュタルの美しい顔が崩れていた。
今はまだ、彼女の体は拘束された状態だが、そんなものは微塵も感じさせないような哀しく美しい泣き顔だった。
「ごめんなさい、ユリウス様・・・私・・・わたしっ!」
「イシュタル、君はなにを謝っているんだ?」
ユリウスには分からなかった。
イシュタルが泣く理由も謝る理由も分からなかった。
彼はイシュタルの心を無視して、彼女を支配しようとしているのだ。
怒られることはあれこそすれ、この様な表情をされるとは思わなかった。
「私は・・・なんて・・・」
(なんて・・・酷い女なの・・・)
ユリウスの記憶を見たとき、イシュタルは激しい悲しみに襲われた。
彼を襲った悲劇・・・彼には辛過ぎた事実。
ユリウスの優しい笑顔が、心が・・・壊された過去を見たのだ。
イシュタルに悲しかった。
イシュタルにとってかけがえのない彼が、たった一人の司祭のもたらした言葉に破壊されてしまったことが。
(でも・・・本当に悲しいのはそんなことではない・・・そんなことでは・・・)
彼女は本当に悲しかったこと・・・
いや、彼女にとっては自分自身に対する怒りと言えるかもしれない。
(なんで・・・私はユリウス様を助ける事はできなかったの!?)
彼女は自分が憎かった。嫌だった。
なんで、自分がユリウスを救う事はできなかったのか・・・と。
(ユリウス様は私に助けを求めてくださった。他の誰でもなく、私に・・・ユリウス様が愛を与えてくださった私に助けを求めてくださったのだ。それなのに私は・・・ユリウス様が苦しみ、悲しんでいられるときになにもできなかった。お傍にいることすらできなかった。)
イシュタルはユリウスが苦しんでいる時、遠くトラキアの地に彼女はいた。
彼の助けにいけるはずもなかったのだが・・・
しかし、イシュタルには関係ない。
彼女の最愛の人であるユリウスが・・・彼女の事を好きだと言ってくれたユリウスが苦しんでいたのだ。悲しみに打ちひしがれていたのだ。
しかしイシュタルは彼を助けることができなかった。
近くにいてあげることすらできなかった。
大好きな彼が自分に助けを求めてくれたの自分はなにもできなかったのである。
大好きな彼なのに・・・
(私がいればユリウス様を助けられかどうかは分からない。でも何か言ってあげる事はできたかもしれない。彼の悲しみを和らげてあげることができたかもしれない。彼の優しさを繋ぎとめることができたかもしれない。そうすれば絶望に苛まれながらロプトウスになる事はなかったかもしれない。ユリウス様を助けることができたかもしれない・・・)
それはある意味イシュタルの自惚れであったかもしれない。
自分がいればユリウスを助けられたかどうかは、また別問題である。
でも彼女は、自分がユリウスの傍にいなければいけなかったと思った。
それが・・・ユリウスを愛した自分の想いなのだから・・・
そして彼女はその想いを自分で裏切ってしまったのだ。
(私にはユリウス様を愛する資格などないのかもしれない。ユリウス様を助けることができなかった私などには・・・)
愛し合った二人・・・
しかし、男は闇にとりつかれ・・・女はその彼を助ける事はできなかった。
(私は罪深い女・・・大切な方を救えなかった最低な女・・・そんな私にはあの方の愛される資格はない。私があの方にできるのは・・・)
彼女の中を駆け巡る一つの想い・・・
(それは・・・あの方にこの身を捧げる事・・・あの方の全てを受け入れること・・・)
それが自分にできるユリウスへの贖罪だと・・・
ユリウスを救えなかった自分の罰だと思った。
「イシュタル・・・どうかしたのか?涙など流して・・・」
イシュタル泣き顔をユリウスは覗きこむ。
そのユリウスの顔をイシュタルも見返した。
二人の視線が重なる。
しばらく沈黙が続く二人。
最初に口を開いたのはイシュタルの方だった。
「ごめんなさい・・・ユリウス様・・・」
先ほどと同じ言葉をだすイシュタル。
「先ほどから同じ言葉を口にしているな、イシュタルは・・・一体なにをあやまっているんだ?」
ユリウスは自分の見せた過去がどれだけイシュタルに衝撃を与えたのかを知らなかった。
そして彼女が自分自身を責めている事を・・・
「私は・・・ユリウス様が苦しんでいた時になにもできませんでした。お傍にいることすらできなかった。ユリウス様が私を御呼びになったのに・・・私は答えてあげることすらできなかった。あなたの事が好きだったのに・・・あなたに好きといってもらえたのに。私は・・・あなたの元へはいけなかったのです。」
「・・・・・・」
「私は酷い女です。大好きな方を救うこともできない・・・慰めることすらできなかった最低な女です。こんな私がユリウス様を愛する資格なんてないです。」
「・・・イシュタル・・・」
イシュタルにとって彼を助けに行けなかった事が辛かった。
そして、彼がロプトウスになってしまった悲しみを・・・
変わってしまった彼の上辺だけの姿だけを見てしまい、その奥にあった悲しみを知ろうとはしなかった。
確かに彼はロプトウスとなってしまった。
心は変わってしまった。
しかし、その奥にある悲しみは変わらない。
優しい彼が変わってしまった悲しみを知る事ができなかったのだ。
それが自分の罪だとイシュタルは信じていた。
だからイシュタルは償わなければならないと思った。
自分の罪を・・・ユリウスに・・・
「ユリウス様・・・私を好きにしてください。」
「なに?」
「私の体も心もユリウス様の思うとおりにしてください。それが・・・ユリウス様の愛を裏切った私の報いなのだから・・・」
彼女には、それしかユリウスへの償いが考えられなかった。
イシュタルがなにもできなかったために変わってしまった彼の望む通りにされること・・・
それが彼女にできる償い・・・
「お前は私の愛を裏切ったというのか?だから、私になにをされても良いと?」
「はい・・・私は自分の大好きなユリウス様を苦しめてしまいました。それが私にできる償いです。大好きなユリウス様に対する・・・」
ユリウスの問いにイシュタルは即答をした。
しかし、ユリウスは・・・
「嘘をつくな・・・」
「えっ?」
イシュタルの告白にユリウスは冷たすぎる目と声で答えた。
「お前は僕を好きではないのだろう?分かっているんだ。僕はイシュタルの優しさを知っている。その優しいお前が僕の事を好きになるはずなんてない。こんな姿になってしまった僕を好きになるなんて・・・僕の知っているイシュタルなら・・・今の君は僕の過去を知り、感傷的になっているに過ぎない。」
ユリウスはイシュタルの気持ちが信じられなかった。
彼自身、イシュタルを愛している気持ちは変わらない。
しかし、彼は自分が愛されている自信がなかった。
先ほども言ったように、ユリウスは自分の変わり果てた姿に引け目を感じていた。
だから、自分の昔を知るイシュタルが自分を愛する事がないと思っていた。
いや、信じ込もうとしていた。
自分の中にあるイシュタルの優しさが、そして思い出が綺麗であれば綺麗であるほど、今の自分が醜く見えてしまうから。
だから彼は自分を貶めて、彼女を自分の手で汚す事でしか彼女と一緒になれないと思っていた。
堕ちた自分が彼女と結ばれるには、それしかないと考えていたから・・・
だから、彼はイシュタルの愛が信じられなかった。
自分を受け入れようとする彼女を信じられなかった。
それを信じたら、自分の中のイシュタルを否定することになってしまうから・・・
「そ、そんなこと・・・私はただ、ユリウス様が好きなんです。それだけです。あなたの悲しみを少しでも受け入れたいだけなのに・・・嘘だなんて・・・」
イシュタルは本気でユリウスを受け入れるつもりだった。
嘘などと言われるのは心外だった。
「こんな姿になってもかい?」
ユリウスはイシュタルに思い知らせようとした。
今の自分を受け入れる事がどういう意味なのかを・・・
ブオン!
突如、ユリウスの体を闇が取り囲んだ。
「えっ?・・・な、なに?」
イシュタルの目の前のユリウスの体が闇に囲まれたことに驚いた。
彼の体は魔力か何かで作られた闇の球体に完全に取り込まれた。
「ユリウス様・・・一体なにを・・・」
イシュタルには彼が何かをしようとしている事が分かった。
それが何なのかは分からなかったが・・・
突如、彼女の体を包んでいた闇が飛び散るように消え去った。
そしてユリウスの体が現れた。
「!?・・・・ユリウス・・・さま?」
彼女はユリウスの姿を見て、唖然とした。
「こんな姿になっても・・・お前は僕を受け入れてくれるというのか?」
イシュタルを冷ややかで寂しそうな視線で見つめながら、ユリウスは呟いた。
彼の体は全体としては、先ほどと変わってはいない。
ただ、彼の背中には、先ほど彼を包んでいた闇と同じ色をした黒い球体が浮かんでいた。
その球体から、無数の蛇が鎌首を垂れていた。
何匹いるかも分からないほどの無数の蛇が、黒い物体から生えているのだ。
「これは・・・僕がロプトウスになった際に手に入れた力の一つ。邪竜ロプトウスはその己が配下に多くの蛇を従えている。これはその蛇たちだ・・・」
「・・・・・・」
「この蛇は私の意志で自由に動く・・・言わばこれは私の分身だ。私の闇を表すもう一つの私だ。こんな姿になっても・・・お前はまだ私を受け入れようとするのか?」
ユリウスはこの姿をイシュタルが見たら、きっと恐れ、そして自分に失望すると思っていた。
しかしイシュタルは・・・
「・・・はい」
たとえ人外の姿になったユリウスでも、イシュタルは受け入れたかった。
彼をその姿にさせてしまった責任は、自分にもあるのだから。
(イシュタル・・・お前は僕のこの姿を見ても、まだ私を受け入れようとするのか?)
イシュタルのその決意に・・・ユリウスは・・・
(なら、望み通りにしてやろう・・・)
いまだに彼女の想いを信じられずにいた。
ユリウスの目が光った。
それと同時に、彼女の四肢を拘束していた鎖が弾け飛んだ。
更に彼女の菊に埋め込まれていた張り型も抜け落ちた。
「はう!」
彼女のアナルを圧迫していた張り型の消失に、イシュタルは思わず声を上げた。
「イシュタル・・・分かった。お前の気持ちを受け取ろう。」
ユリウスは彼女を徹底支配する事を決意した。
無数の蛇が脱力するイシュタルに向かって伸びていった。
彼女はその光景を静かに見ていた。
何の抵抗心も恐怖も憎しみも感じずに・・・
ティニーに女神を想像させた彼女の美しい肢体に黒き蛇たちが絡みついていった。
手足に絡みついて彼女の動きを封じると、他の蛇はイシュタルの体の各所を弄ぼうとかかっていった。
一匹の蛇が乳房を己が体で締め上げ彼女の大きな胸を張り出させると、その先端にあるピンクの突起に顔を使って擦り上げる。
「うっ・・・ああっ!!」
彼女の体で先ほど媚薬を塗られた場所は今だ敏感のままであったため、蛇が乳首を動かすだけで彼女の体は激しく反応する。
蛇は乳首を責めるだけではなく体を動かすことによって乳房を歪ませる。
弾力あるイシュタルの胸に蛇の体が食い込み、妖しく蠢く。
その度に彼女の胸が形を変えていく。
「うかああっ!はあ・・・はあ・・・」
彼女は乳首だけではなく乳房全体を責められて喘ぐ。
蛇は乳首と向き合うと、口を開けて舌を出した。
舌は彼女の乳首をチロチロ舐めて、その部分に刺激と濡れを与えていく。
舌が動く度に彼女の体はビクビクと震えた。
ユリウスの意思通りに動く蛇達はイシュタルの急所を的確に犯していく。
太股や首筋などにも蛇たちが取り付き、彼らは彼女の体を這いずり回った。
蛇達は彼女の体を這いずり回った。
自らの体を巻きつかせ、ヌルヌルした皮膚を相手に押し付ける。
イシュタルはその感覚に鳥肌を立ててしまう。
徐々に彼女の体は蛇たちによって覆い尽くされていった。
「どうだ?気持ち悪いだろう・・・これが俺の正体だ。」
ユリウスは呟きながら、さらに蛇の動きを激しくする。
這いずり回るスピードが早くなり、蛇は更にその皮膚に粘膜を露出させて自らの体を擦り合わせることによってイシュタルの体をベトベトにしていった。
さらに蛇は体を震わせ、彼女の肌に振動という刺激を与えていった。
蛇は口を開けて彼女の体を舐め回し始めた。
乳首を責めている蛇と同じように、彼女の体の隅々を舐め上げていく。
「う、うっはああぁぁ!・・・あっ・・・くっ・・・」
敏感になった乳だけではなく、多くの蛇に体中を犯されてイシュタルは大きな声を上げた。
普通の女性ならこれだけの状況に追い込まれていたなら卒倒していただろう。
しかし、イシュタルは耐えていた。
ユリウスはその光景を眺めていた。
「本当に絵になる光景だな。お前の白く美しい肌を醜い蛇どもが思うがままに蹂躙してる。イシュタルの美しさも合いあまって、神話の世界の魔王に囚われた美姫を連想させるな。」
(本当にその通りなのだがな・・・美しく気高くて優しいお前が、闇の存在である僕に囚われて・・・貶められていく・・・皮肉なことだ、お前のような美しいと形容できる女が、僕のような醜い存在に・・・)
ユリウスは自らの比喩に冷笑をしながらも・・・
(でも、それでもおまえを手に入れたいんだ。僕の欲望の赴くままに・・・お前をこの手の中に閉じ込めておきたいんだ。)
イシュタルへの想いを止められずにいた。
イシュタルの手を拘束していた蛇の締め付ける力が強くなる。
「い、いたい!」
突然、彼女は浮遊感を感じた。
彼女の体に巻きついていた蛇が彼女の体を持ち上げているのだ。
ベットから浮かび、手足を広げさせられ、宙に大の字で固定させるイシュタル。
身が宙に上げられてしまったため、体の自由まで蛇たちに支配される。
地に体も足もつけない不安定な状態で、イシュタルの体は徹底的な責めを受ける。
蛇達は更にイシュタルの体を強く締め付け、這いずり回り、舌で責め立てる。
胸を責めていた蛇は口を大きく開けて、乳首に喰らいついた。
「ひぐぅ!」
「安心しろ。お前の体に蛇の毒を入れるつもりはない。」
蛇は乳首を口に含み、口内で舌を使って愛撫した。
「あ、ああぁぁん!」
まるで人間の男性が女性の乳頭を口に含むのと同じように、彼女のそれを責めた。
しかし、人間のものと違って蛇の口内はひどく冷たかった。
冷たい口に乳首を含まされて、イシュタルは異常な感覚と刺激に震え上がった。
そして同じく冷たい舌が乳首を転がし、彼女に甘い感覚を与える。
「気持ち良さそうだな。イシュタル・・・さて、もうそろそろ・・・」
一匹の太い蛇が彼女の股間に向かって伸びていった。
「さっきの成果を試させて貰おうか・・・」
その蛇が彼女のアナルに到達し、その舌で一舐めした。
「ああっ!」
彼女は菊の入り口付近まで媚薬の洗礼を受けていたため、それだけでも体をビクビクとさせてしまう。
「十分に感じるようになったものだな。」
ユリウスは言葉と共に蛇はアナルへの侵入を図る。
頭を強引に潜り込ませていく。
イシュタルは激しい圧力を覚悟したが、先ほど張り型を受け入れたアナルは意外とあっけなく侵入者を受け入れた。
「うううぅぅぅ・・・」
「これで、男の受け入れる事ができる場所がもう一つ増えたな・・・イシュタル・・・」
進入を果たした蛇は彼女の前後運動を開始した。
ズン、ズン、ズン!
「はあああぁぁっ!あっ!ああっ!」
大量の媚薬を含んだためだろう、アナルを蛇が蹂躙していくたびに甘く激しい刺激がイシュタルの中に広がっていく。
イシュタルは頭を振って、激しく悶えた。
「イシュタルはなにを入れられても感じるのだな。極太の張り型でも、おぞましい蛇でも、お尻を限界まで拡げて受け入れるのだな。本当に好きものだね。イシュタルは・・・」
「い、はああぁぁ・・・いわないで・・・」
頬を赤らめながらイシュタルは抗議する。
しかし、アナルに挿入される度に彼女は嬌声を上げ、腰を振ってしまっていた。
蛇の責めは徹底していた。
しきりに彼女の中で折れ曲がり、彼女の中を掻き回した。
また、時々動きを止めては彼女の腸道を己が舌で舐め上げた。
直接的に排泄器官を舐められるという行為に、イシュタルは嫌悪感を感じながらも、異常な体験と刺激に悶えてしまっていた。
全身の中でも胸とアナルは重点的に責められた。
先ほどはユリウスの手によってだったが、今は黒い蛇が彼女を責めているため、背徳的なものを自他とも感じていた。
「ああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
彼女はほどなく絶頂を迎えた。
体は激しく痙攣し、弓なりにそった。
「早速、イケたんだね。イシュタル・・・」
「はあ・・・はあ・・・」
ユリウスに顔を覗かれても、彼女は絶頂の余韻に晒されて答えられなかった。
「本当に気持ち良かったんだね。もっと気持ち良くさせてあげるよ。」
いまだに震えている彼女の体が移動し始めた。
足を開いた状態で移動していった彼女の体は、ユリウスの目の前に股間を晒す形で空中に停止した。
蜜を垂れ流すヴァギナと蛇が体を沈めているアナルが、ユリウスに眼前に顕わになる。
「こんなに可愛い下の口が蛇を咥えてる。蛇が蠢くたびに皺がピクピク震えているよ。蛇も君のここに揉まれて気持ち良さそうだ。」
「・・・そんな・・・私・・・」
イシュタルは否定するのは無意味だと思った。
彼の言った光景は事実そのものなのだから。
彼女の体はしっかりと蛇を下の穴で受け入れていたのだ。
「こっちも気持ち良くさせてあげよう。」
ユリウスは彼女の花芯に舌を這わせた。
ぺロぺロとユリウスの舌が這うたびに、敏感なクリは悦楽の悲鳴を上げた。
今まで、何度もユリウスの舌で責められてきたイシュタルの果実だが、今はアナルと同様に媚薬を含まされているために、今までのそれよりはるかに激しい疼きがイシュタルの脳髄を突き上げるように押し寄せる。
彼女の弱点を的確に責めるユリウスと蛇達の動きは、すぐに彼女を再びの絶頂に突き上げていく。
「はあ・・ううぅぅ!・・・あ、はあああああくうううぅぅ!!」
すぐに絶頂を迎えてしまうイシュタル。
媚薬の塗られた所に対して行われる徹底的な愛撫、体中に絡みつき責め立てる数多の蛇たち。
すでにこの異常な行為にいくらか慣れてきたイシュタルは、その動きに素直な反応をするようになっていった。
声をあげ、蜜を垂れ流すことによってユリウスの異常な行為を受け入れるイシュタル。
こうなると止まらない。
一度、極限まで高められた性感は引く事を知らず、さらなる責めを受け入れることによって、終わりなき無限の絶頂地獄に追い詰められていく。
「止まらなくなってきたみたいだね。好きなだけイカせてあげるよ。僕に抱かれている間は壊れてしまうぐらいにね。」
ユリウスはイシュタルをそう言いながら、イシュタルのヴァギナを見つめた。
「もうそろそろ・・・ここも満足させてあげるとするか・・・」
ユリウスの意思を受け入れ、一匹の蛇が彼女の秘所に向かって進んでいった。
太股を通り過ぎ、股間に顔を伸ばしていく。
そして濡れそぼった彼女の秘所に顔をつけたとき、ピチョ・・・っと水音がし、彼女は自分のアソコに蛇が近づいた事を知った。
(そ、そんな・・・ここも蛇で・・・)
いくらこの身をユリウスに捧げる事を決意したとは言え、ここまで蛇によって蹂躙されることに、イシュタルは寂しさを感じていた。
(本当は・・・ユリウス様自身に感じてもらいたい。私を・・・)
イシュタルは本当はユリウスに愛して欲しかった。
たとえ、彼の支配に置かれることを覚悟したとしても・・・
(でも、それは適わぬ希望ですか?ユリウス様・・・)
ズズズズッッ!!
彼女の花に蛇が潜入を開始した。
「あああぁぁぁ・・・」
彼女の花は冷たい蛇の体を受け入れて、一瞬背筋が寒くなるのを感じた。
しかし、それは一瞬のこと・・・
すぐに蛇の冷たき体はイシュタルの体内と愛液によって温められていった。
ほぼ人体と同じくぐらいまで体温が上昇した蛇をイシュタルのヴァギナは受け入れた。
蛇は彼女のヴァギナを掻き回し始めた。
グチョグチョと音を立てて、彼女の秘肉が蛇の体と擦り合わさっていく。
「あ・・・ああ!・・・・・うううあああぁぁっ!」
肉が擦れるたびに彼女の体はおぞましいながらも、燃え盛るような熱い刺激に苛まれる。
蛇は肉棒では行えないような動きを持って、彼女の膣を動き回った。
体を曲げ、自らのぬめりに満ちた体を膣壁に擦るつけたりしながら動き回った。
そして長き舌で決して普通の人間では見ることすらできない深き場所を舐めていった。
「あふ!・・・あっ・・・くわああああぁぁぁぁぁっ!」
体の性感帯のいたるところを犯され、その行為がもたらす快感をためにフルフルと脈動する彼女の体。
すでに、彼女を襲う痙攣は止まることはなかった。
終わりなきオーガズムが彼女の体に留まって離れなかった。
もう、イシュタル自身、自分の身になにが起きているのか分からなくなっていった。
ただ、自分の体がビクッと震えるごとに、彼女の真っ白になった頭の中がその白さを増していくのが感じられた。
(分からない・・・もう・・・なにも・・・)
しかし、そんな中でも
真っ白になった頭の中にユリウスの優しき顔が浮かび上がる。
(ユリウス様・・・これでいいのですね。私・・・これでいいのですよね。あなたのなさる事を受け入れていけばいいのですよね。)
イシュタルはその決意通り、彼を今受け入れていた。
しかし、どれだけ彼を受け入れても・・・
どれだけ自分が感じようと・・・
何かが物足りなかった。
いや、体がではない。
彼女の心が、ユリウスを愛している自分の心が何か物足りなさを感じていた。
それは、先ほど自分が感じた想い・・・
(もっとユリウス様に私を感じて欲しい。)
それはイシュタルの願いでもあり、望みだった。
(私をもっと感じて欲しい。私の体を・・・そして・・・)
本当にささやかな・・・彼女の望み・・・
(私がどれだけ・・・あなたの事を愛しているか・・・知って欲しい・・・)
「っはあああぁぁぁぁっ!! あ、ああああぁぁっ!!」
ひたすら声をあげ続けるイシュタル。
何度絶頂に昇り詰めたかどうか、分からなくなっていた。
「イシュタル・・・どうだい?もうお前の体は熱くてとろけそうなのではないか?」
ユリウスはイシュタルの顔を覗き込んだ。
彼自身、ここまでイシュタルを狂わせた事は今までなかった。
彼女がこれほどまでに悶えている時に、どんな表情を浮かべているのか・・・興味があったのだ。
仰向けの状態で宙に固定されていたイシュタルの体を覗き込むために、顔を近づけるユリウス。
そして彼が顔を近づけた時だった。
もともと彼女は抵抗の素振りすら見せなかったため、あまり蛇たちも彼女を拘束する力を弱めていた。
そのため彼女は拘束から両手を抜け出すことに抵抗した。
宙に浮かんだ状態であったため、一つ間違えば落下するかもしれなかったが、胴体には多くの蛇が絡みつき力を入れていたため落ちることはなかった。
自由になった両手をユリウスの顔に添えるイシュタル。
その行動にユリウスは呆けた表情になった。
「イシュタル・・・?」
ポツリと彼女の名を呼ぶユリウス。
潤んだ瞳で、頬を赤らめながらイシュタルはユリウスを見つめている。
最初、その瞳はあまりの快楽に涙を流しているものだと、ユリウスは考えた。
しかし、彼女の潤んだ瞳には快楽で我を失った色など微塵も感じられなかった。
むしろ、驚くほど透き通った瞳でユリウスを見つめていた。
これほどイシュタルの綺麗で透き通った瞳を見るのはユリウスも最初だった。
彼女の瞳に見つめられて、ユリウスの心臓の動悸が激しくなっていった。
(なんなんだ・・・このイシュタルの瞳は・・・)
そしてその時・・・
イシュタルは首を上げ、自分を見つめていたユリウスの唇に己がそれを合わせた。
彼女の両手はいつの間にかユリウスの顔を抱きしめていた。
まるでそれは、もうユリウスを離さない意思表示のように見える。
ユリウスは目を丸くしていた。
まさかイシュタルの方からキスをされるとは思ってもいなかったからだ。
(イシュタル・・・)
決して濃いキスということではなかった。
唇を合わせるだけの優しいキス・・・
(イシュタルの香りがする。心地よい香りが・・・ 僕の目の前にイシュタルの綺麗な顔があって、僕にキスをしてくれて・・・)
ユリウスは心が温まっていく事を感じた。
燃えるような熱さではなく、心の中から温まっていくような・・・そんな感じであった。
(僕とイシュタルが・・・こんなキスを交わしたのはいつの頃だったかな・・・)
ユリウスは、自分とイシュタルがかつてこんなキスを交わしたことがある事を思い出した。
(そう・・・あれは僕とイシュタルが別れるとき・・・あのバーハラ王宮の庭で・・・)
彼らが別れた場所であり、そして始めて愛を確かめ合った場所であった。
自分が本当にイシュタルを大切に思った時間。
彼女を迎えに行く事を決意し、限りない未来を信じていた時間でもあった。
(懐かしい・・・もう遠い過去のような気がする。)
ユリウスは自分の人生で一番かけがいのない時を思い出していた。
(戻りたい・・・あの頃に・・・)
イシュタルは唇を離した。
そして潤んだ瞳でユリウスを眺めていた。
「ユリウス様・・・」
ひどく熱を含んだ声でユリウスの名を呼んだ。
度重なる絶頂を迎えていたのだから仕方がないだろう。
「ユリウス様・・・はあ・・・ユリウス様・・・」
イシュタルは半ば極限状態だった。
自分の意識もはっきりしていないのだろう。
うわ言のようにユリウスの名を呼んでいた。
「ユリウス様・・・もっと感じて・・・私を感じてください。」
イシュタルは自分の両手をユリウスの背中に回しながら言った。
「もっと私を感じてください。ユリウスさま・・・私の気持ちをもっと受け取ってください・・・おねがいです・・・あなたなりの愛で、私を包んでください!」
「イシュタル・・・」
(イシュタル・・・お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?俺の愛で包んで欲しいなどと・・・)
「あなたが好きだから、愛しているから・・・私の全てをあなたに捧げたい。もっと気持ち良くなって欲しい。」
イシュタルはほとんど無意識にその言葉を紡ぎだしていた。
「イシュタル・・・お前は本当に私を・・・」
ユリウスはイシュタルの気持ちが自分に向かないと今まで思っていた。
それは自分が昔の自分と違うから・・・
でも、それでもイシュタルは自分を愛してくれるというのか?
昔と同じように・・・自分を・・・
(本当に・・・信じてもいいのかい?イシュタル・・・君の気持ちを・・・)
「ユリウス様・・・私を愛して! あなたを感じさせて!大好きです!」
今だ、蛇たちに嬲られ続けていた彼女は大声を上げながら訴えていた。
「イシュタル!」
ユリウスはイシュタルを優しく抱きしめた。
宙に浮かび、蛇に絡み付けられていたにも関わらず、ユリウスは臆せず彼女を抱きしめた。
「イシュタル・・・僕もだ。君の事が大好きだ。初めて出会ったときからずっと・・・」
「あぁ〜・・・ユリウス様・・・嬉しいです。」
イシュタルの気持ちが信じる事ができたとき、ユリウスは彼女をしっかりと抱きしめていた。
昔のあの庭園で語り合った時と同じ気持ちで・・・
またイシュタルもたとえ理性が薄らんでいても、ユリウスの優しく抱きしめられ、心は過去へと回帰していた。
「イシュタル・・・僕は・・・僕は!」
「ユリウス様・・・」
二人は上気した表情でお互いを見つめていた。
そしてどちらかともなくキスを再び交わした。
今度は舌を絡めるほどの熱いキスで・・・
ユリウスはズボンのチャックを下ろし、自らの分身を取り出した。
既に散々イシュタルの痴態を見せられていたため、いきり立った状態で姿を現した。
彼はベットの上に足を伸ばして座り込んだ。
その上にイシュタルの体が蛇とユリウスの手によって運ばれてくる。
蛇達は彼女の体をユリウスに対面させる向きにさせ、彼女の股間を彼のイチモツの上で停止させた。
向かい合った状態で見つめ合う二人。
「イシュタル・・・いくよ・・・」
「はい・・・きて・・・ユリウス様・・・」
互いに頷いた後、イシュタルの体が下がっていった。
ズニュ・・・ズズズズズッ・・・
「はあああぁぁぁぁっ・・・・・・!!」
いわゆる対面座位の状態でユリウスはイシュタルを貫いた。
彼女の甲高い声が部屋に響き渡った。
どんどん進入していくユリウスの分身。
十分な濡れていた彼女の秘所が彼の全てを受け入れるまで、それほどの時を擁しなかった。
「うっ・・・うううぅぅぅ・・・入ってくる・・・私の中に・・・ユリウス様が・・・」
イシュタルはユリウスのモノを受け入れながら、艶の入った声をあげた。
既に、根元までユリウスのモノが埋め込まれていた。
「ああっ・・・イシュタルの中に全て入ったよ。相変わらずイシュタルの中って、柔らかくてきつくて・・・熱いね。」
「いや・・・言わないでユリウス様・・・」
恥らうイシュタルにユリウスは思わず笑みを浮かべる。
恥らいの表情を見せるイシュタルは本当に可愛かったから。
いつの間にか彼女を拘束していた蛇達は消え去っていた。
ユリウスを取り囲んでいた闇も消え去っていた。
「イシュタル・・・動くよ。」
彼はイシュタルの腰に当てた手を動かし、彼女の体を揺すり始めた。
「あっ・・・はああぁぁ!・・・ふわあああぁぁぁっ!」
彼女はその途端に腰を震わせ、声をあげた。
今まで散々お預けをされていたためもあるだろうが・・・
なにより愛するユリウスの・・・心の通じ合ったユリウスを迎える事ができて、彼女の花はこれ以上ないほどの蜜を出し、悦びに打ち震えていた。
(イシュタルが・・・僕を受けいれてくれている。今までこんなに優しく僕を受け入れてくれた事なんてなかった。)
イシュタルの中にこれ以上ないほどの快感を発見したユリウス。
今まではここまで自分もイシュタルも燃え上がったことはなかった。
(これが愛し合うということなのか・・・相手と体だけではなく、心も結びつく事がこれほど温かいことだなんて・・・)
今までの情事では感じられなかった充足感と満足感が彼を包んでいった。
ユリウスはその感覚に酔いしれながら、激しく彼女の体を動かし、腰を突き上げていった。
イシュタルも同じ感覚を味わっていた。
彼女はユリウスに処女を奪われて以来、何度も抱かれてきたが・・・
これほどまでに心を温かくさせながら、彼に抱かれたことはなかった。
心を通わせながら・・・愛されながら抱かれることはなかった。
ある意味、彼女はこの瞬間に処女でなくなったのかもしれない。
ユリウスのものとして支配されるのではなく、大切な人に愛されながら抱かれる一人の少女になったのかもしれなかった。
彼女の体は心の制約が解かれ、ユリウスを悦びをもって受け入れていた。
「あああぁぁ!うっ・・・あんっ・・・あんっ・・・うわあああぁぁ・・・」
ユリウスのモノがイシュタルの中を往復するたびに、イシュタルとユリウスの接合部からグチュグチャと卑猥な音を奏でていた。
その音が二人の耳に届くたびに、二人の心はどんどん淫らになり、体は燃え上がっていった。
ユリウスは腰を突き上げるだけではなく、自分の目の前で激しく揺れる右胸に舌を這わせた。
今までに何度も蹂躙してきた彼女のピンクの綺麗な乳首を口に含んで転がした。
彼女の体位を支えるために背中に回していた両手うち、右手で彼女の左胸をもみ回した。
ユリウスは興奮した状態であったため、胸を責める口にも手にも力が入ってしまう。
「つう!・・・ふはあああぁぁぁっ!・・・ああ!」
彼女は一瞬、苦痛の声を上げたが、すぐにそれを上回る刺激が彼女を狂わせ、嬌声を上げさせた。
イシュタルはユリウスの責めに、自らも行動を始めていた。
ユリウスが突き上げる動きに、ユリウスも自らの腰を動かすことで応えた。
彼の突き上げる動きと彼女の腰が沈む動きを一致した時、結合がもっとも深くなり、二人に至上の疼きを与えた。
二人はそれを求めて更に動きを速めていった。
「う、やはああああぁぁぁっ・・・あっ!あんっ!ふはああぁぁ・・・」
「くっ、ううう、はぁ・・・はぁ・・・はぁ!」
二人の息遣いと水音・・・そして肉の擦れる音だけが部屋に響き渡っていた。
激しく洩れたイシュタルの蜜がユリウスの下半身を濡らしていた。
「ユリウス様・・・すごい・・・凄すぎる! 私、熔けてしまいます!!」
イシュタルは度重なる快感の渦の前に、身を委ねきっていた。
愛するユリウスに抱かれ、あの頃と同じ気持ちでユリウスと接する事ができて、イシュタルは今、本当に幸せだった。
「イシュタル!・・・凄い・・・僕は・・・僕は!!」
ユリウスも今はイシュタルと正面で向かい合う事ができた。
あの時にイシュタルに対しての愛をそのままに、彼女を愛する事ができた。
「イク・・・私・・・イッテしまう!・・・壊れてしまううぅぅぅぅっ!!」
「でる!・・・僕もイク・・・イク!!」
二人の動きが最高潮に達しようとしていた。
限界が近づき、既に相手のことしか見えていなかった。
愛する互いの存在しか・・・
そして・・・
「イシュタル!!」
ビクン!!
ユリウスのペニスが限界に達して震えた。
そして白濁した想いを彼女の子宮に打ち放った。
ドクドクと自らの中にユリウスのユリウスの精液が流れ出すのを感じながら・・・
「ユリウスさまあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
彼女も限界を迎え、弾けたのだった。
二人は共にベットに寝ていた。
「ユリウス様・・・」
イシュタルの横にはユリウスが安らかないびきを立てて眠っていた。
本当に無垢な寝顔をしながら・・・
(本当に・・・安らかなお顔をしてらっしゃる・・・)
ユリウスの長い髪に手を添えてみる。
燃えるように赤く長い髪は驚くほどしなやかだった。
イシュタルはしばし手を添わせ、その感触を楽しんだ。
(本当に綺麗で美しい顔・・・美男子の典型よね・・・でも)
ユリウスを見つめていたイシュタルの顔が曇った。
(どうして・・・こんなに綺麗で優しい方がロプトウスとなってしまったの? 私を愛してくれたこの優しい方が・・・ロプトウスの血を引いて生まれてくることになってしまったの?)
イシュタルはユリウスの運命に思いを馳せていた。
優しい一人の少年に課せられた辛き運命。
なぜ神はこの少年に辛き思いさせるというのか・・・
(どうして・・・この方が・・・)
イシュタルの目に涙が浮かんできた。
そのためユリウスの姿が霞んでいった。
ぼんやりとしてくるユリウスの寝顔・・・
彼女も疲労のためか、瞼が重たくなってきた。
もう、周りの光景はなにがなにやら分からなくなっていた。
(明日になれば・・・ユリウス様がロプトウスから解放されていたら・・・どんなに嬉しいだろう・・・どんなに・・・)
イシュタルはユリウスの事を思いながら、深き眠りの世界に落ちていった・・・
あなたの名は・・・ 第七章 ティニー編へ
あなたの名は・・・ 第八章へ
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